「禁色」 三島由紀夫 著 を読みました。表現が難しく読むのが大変でした。
こだわりがある妥協のできない人間は苦労するなと思いながらも純粋さを感じたり、エゴが強くて筋通ってない自分勝手な人だなって思ったりそんな感想です。何回か読み直したらまた違うかもしれないけど、読むのに体力いるかも…。
登場人物
檜俊介 → 作家業に成功した老人、醜い顔。美しい女性に悉く裏切られてきた、嫁もいたが浮気され若い男と心中された。
悠一 → 超絶イケメン、康子の旦那、ゲイ、父親と康子の父親の約束で康子と結婚する。父が亡くなり腎炎の母と女中と3人暮らし
瀬川康子 → 悠一の妻、病気の療養中に俊介と出会いサインを求めて、親しくなる。
鏑木夫人 → 夫と協力して美人局をしている。どんな男とも一週間以内に慇懃を通じる伝説の持ち主
鏑木信孝 → 協会の理事や会社の会長をして小遣い稼ぎで夫人と美人局をしている元伯爵。男色家でポープという名で呼ばれている。夫人は知らない。
穂高恭子 → かつて康子と同様に俊介を拒んでいる。
並木 → 恭子と噂のある男性
給仕の少年,英(えい)ちゃん → 悠一の初めての相手の男
ルディー → 男色家が集まる喫茶店ルドンの店主
オアシスの君ちゃん → ダンスホール「オアシス」の元ボーイ
あらすじ
- 老作家の檜俊介が家に通ってきていた瀬川康子(19)にキスをしたところ蔑んだ眼で見られ、翌日から来なくなる。
- 康子の家を訪ね彼女は伊豆にいるとわかる。
- 彼女の宿泊する伊豆の宿で海辺の公園にいるとわかる。
- そこで海から出てくる超絶イケメン悠一と出会う。康子と結婚予定と知る。
- 三人で夕食後、康子が入浴中に悠一が俊介の部屋に来て、自分は女性を愛せないと告白
- 絶対に康子には告白するなと俊介は悠一に忠告して、結婚するように勧める。
- 悠一は家庭の経済状況が厳しく、瀬川家(康子)に財産目的の結婚と思われたくない。
- 俊介が秘密でお金を出すかわりに美しいが、女性を愛せない悠一に俊介の女性に対する仇討ちに協力してくれるよう提案する。帰京後、悠一は提案に同意する。
- そこで俊介を拒んだ康子、鏑木夫人、穂高恭子への復讐を悠一が代理でするようになる。
その中で悠一は多くの男色家の少年やおじさんと出会い、俊介はなぜか超絶イケメンの悠一に好意を持つようになり、女性はもちろんみんな悠一に好意を持つ。それが自分の方に向かないと知っても。しかし女性の感情に触れ女性を愛していると思ったり、やっぱり違うのかと思ったり、そしてなんとか俊介から解放されようとお金を返そうとする話。
個人的に響いた表現
われわれが思想と呼んでいるものは、事前に生まれるのではなく、事後に生まれるのである。(中略)偶然と衝動によって侵した罪の弁護人として登場する。
何か常識とかすばらしいと思われている考えは実はそう考える事が都合がいいだけなのかもしれないですね。よく考えないといけないということだと思います。
人間は誰でも自分の歯が立たないものが好きだからね。
強いものとか手に入らないものに憧れますが、手に入るとだいたい大した事ないということが多いですね。それにはほんとの価値がないのでしょう。
窓の外から眺める他人の不幸は、窓の中で見るよりも美しい。不幸はめったに窓枠をこえてまでわれられにとびかかってくるものではないからである。
自分に関係のない不幸、つまりニュースなどで流れているようなことに皆食いつきますがそれは悲しんでいるのではなく楽しんでいるのでしょう。そんなことに楽しむなら無視するなり、助ける行動をするなりした方が健全だと思います。でも数十年前から人は同じですね。みんなは変われないけど個人の考えは個人で変えられます。難しいことですが、少しづつ自分を変えようと思いました。
彼の若さは表向きの社会での行為の皆無に苦しんだ。努力を要せずして淳風美俗の権化となっている以上の退屈さがあるだろうか。
何かを褒められても自分の中でそれに実態を感じないときは納得できないです。他人の評価が高くても低くても気にせず基準にせず、自分がどう思うのかそれが一番大切だということです。
古代の作品に触れるときに、空間芸術にまれ時間芸術にまれ、その作品の持つ空間や時間の中に囚われの身になっている間のわれわれの生は、少なくともそれ以外の部分の現在の生を停止乃至は放棄している。
作品に触れる際、作者が現在生きているかどうかということは一個人に関係なくそこには個人と作品という繋がりだけが生まれます。その瞬間には作者は個人と交流することで命が続いているということになるのかもしれません。
美は幸福なんかについて考えている暇はないのだ。ましてや他人の幸福なんぞについて…しかしだからこそ美は、その為に苦しんで死ぬ人をさえ幸福にする力を持っているんだ
かつて戦争に勝ち多くの国を支配した将軍はしていることは残虐非道でも多くの人を魅了しています。それに商業的価値観を放棄し、死後評価される芸術家や俗説を無視して真実を求める科学者がいるが、彼らも自分の幸せを放棄しながらも美しいものを作り出そうとしたのでしょう。そしてその功績は何百年経っても語られ生きながらえるものとなります。
わからなかった言葉
ダンがリーズ → デニムのような素材
サロペット → オーバーオールのようにもの
乾物(かんぶつ) → 乾きもの、干物、柿の種など
肯綮(こうけい) → 急所や物事の要。肯(こう)は骨につく肉、綮(けい)は筋と肉を繋ぐところ。
誰何(すいか) → 誰かと呼び止めて調べること。
嫣然(えんぜん) → 美人が艶やかに微笑む様子
恬淡(てんたん) → 名誉などに執着しないであっさりしている様子
鹹湖(かんこ) → 塩湖と同じ、塩を含む湖
驟雨(しゅうう) → にわか雨
嚠喨(りゅうりょう) → 管楽器の音などが澄み渡る様子
婢(はしため) → 召使い
眷恋(けんれん) → 恋焦がれる
メッサリーナ → ローマ皇帝クラウディウスの妻、強欲な女性の代表として形容されている。
荼毘(だび) → 火葬で弔う
石竹(せきちく) → 花の名前
中強羅(なかごうら) → 箱根にある駅
肋膜(ろくまく) → 結核の別名
薄暮(はくぼ) → 日没後の黄昏
凛乎(りんこ) → 勇ましい様
スノッブ → 上品、教養ぶる鼻持ちならない人
萎縮腎 → 腎炎
蹉跌 → 事が思い込みと違くうまく進まない様
サナトリウム → 長期療養所
コケトリー → coquetry(英) 女性特有の艶かしさ
コケット → 艶かしい女性
淳風美俗 → 人情にあふれ習慣も好ましいこと
宿痾(しゅくあ) → 長く治らない病気
ピルエット→ pirouette 片足の爪先で行うバレエの旋回
累を及ぼす→ 自分の周りの悪い影響が他人にまで影響してしまうこと
浮華軽佻(ふかけいちょう) → 華やかだが実質がないこと
遁竄(とんざん) → 逃げ隠れする
紊乱(びんらん) → 風紀が乱れること
微恙(びよう) → 軽い病気
インバネス → 和服用防寒コート
瞥見(べっけん) → ちらっと見る
昧爽(まいそう) → 明け方のほの暗い時、昧旦