ジョージ・オーウェルの著作「一九八四」は長年イギリスでベストセラーであるディストピアSF小説です。また読んでいないのに「読んだフリをしてしまう本」でも第1位を獲得している本です。
あらすじ
1984年世界は3つの大きな国が統治していた。1つは北米、南米、イギリス、オーストラリアを中心とするオセアニア、2つ目が旧ソ連、ヨーロッパを中心としたユーラシア、3つめが日本、中国などを中心としたイースタシア、この3カ国はいずれも社会主義国でたえず戦争を繰り返している。
ウィストンスミスはオセアニアの真理省に勤務しており、ここでは報道、娯楽、教育及び芸術を担当していて、不都合な新聞の記事などを改竄している。オセアニアはイングソックというイギリス社会主義を掲げる党に支配されていて、党首はビッグブラザーが務めていた。街やプライベートな空間、いたるところにテレスクリーンと言われる情報の発信と監視が同時にできる金属板が設置されていた。
ウィストンの部屋には一部テレスクリーンの死角となる箇所があり、彼はそこで日頃の党への不満などを日記に記していた。二分間憎悪と呼ばれる反革命分子への憎悪プロパガンダ映像を見る時間があり、そこでオブライエンとジュリアを見かける。オブライエンは党の中枢で働いているが、ウィンストンは彼が党の正統派とは考えが異なるのではないかと確たる理由もなく期待していた。
彼はプロールという労働者階級の人々がいる貧民街を歩いていた。党の作業服を着た人間が貧民街を歩いていると怪しまれるのだが、彼は党の崩壊にはプロール達の力が重要だと考えていた。そこでジュリアが歩いているのを見つけ、自分が監視されているのではないかと疑う。
その後、仕事の昼休みに廊下で彼女を見かけた。彼女は怪我をしていて、転倒した。ウィンストンは彼女を咄嗟に助けに行った。その時、彼女に1枚の紙切れを渡された。
「あなたが好きです」その紙にはそう書かれていた。そのことばを見てから、生きていたいという欲望がこみあげてきた。
その後、なかなかジュリアと会うことができなかったウィンストンだが、食堂でついに彼女を見つけ会う約束をした。
彼は彼女に言われたところ、周りの目から遮断されたところに行き、そこで彼女の名前を知り、抱き合った。
その後、秘密で定期的に会えるところを求め日記を買ったプロール街の古物店の一室を店主のチャリントンから借りた。彼はジュリアに対して美しさは感じていたものの、最初は性的な欲望をほとんど感じず、党中枢への攻撃だと感じていた。しかし二回目以降、愛を感じるようになっていた。
ある日、ついにオブライエンが話しかけてきた。彼はウィンストンがニュースピークについての記事を書いたこと、ウィンストンの友人とニュースピークについて話したことがあったのでぜひ話がしたいとのことだった。
オブライエンはニュースピーク辞典の新版が自宅にあるので時間のある時に取りに来ることを提案した。
彼とジュリアはオブライエンの自宅で彼と会うことになり、反革命運動の<ブラザー同盟>が存在すること、そしてオブライエンが彼らに指示をすること、ゴールドスタイン(ブラザー同盟の指揮官)が書いた本を送ることを伝えた。
ウィンストンとジュリアはその後、本を入手しチャリントンの店で読んでいた。すると部屋にかけてある版画が落ち、そこにテレスクリーンがあることがわかった。黒い制服姿の男達が部屋に入ってきて、その後ミスターチャリントンも入ってきた。彼は<思考犯罪>の一員でウィンストン達を監視していたのだ。
ウィンストンは気がつくとどこかわからない監房に連れて行かれていた。そこでオブライエンと再会した。しかしオブライエンによって彼は拷問にかけられた。ただ、これは党中枢の一員として行っていることで彼はオブライエンが助けてくれると疑ってはいなかった。
しかし実際、オブライエンも彼を監視していて、彼を洗脳し二重思考(相反する思考を同時に持つこと)を自然に行えるようにした。そして最後にはビッグブラザーを愛するようにまでなっていた。
登場人物
ウィンストン・スミス→ 真理省で働く。党の主張に対して疑問を持っている。両親と妹がいたが、彼は母と妹が彼が生きるために犠牲になったと記憶している。39歳、静脈瘤がある
キャサリン→ ウィンストンの元妻、党を狂信している。
ビッグ・ブラザー→ 党の指導者、革命の指導者
黒髪の若い娘(ジュリア)→ 虚構局で働く、27歳くらい、反セックス青年同盟の一員、小説執筆機の操作に従事、ウィンストンは彼女が自分のものにはならないと思い憎んでいる。26歳
オブライエン→ 党中枢の一員、眼鏡をかけて優雅な物腰だが、大柄で恐ろしい外見。ウィンストンは彼は党の正統派ではないという期待をしている。
エマニュエル・ゴールドスタイン→ 人民の敵、かつては党の指導者ビッグ・ブラザーと並ぶ地位にいたが、反革命運動に参加し、死刑を宣告される。現在行方不明。陰謀家集団の地下組織<ブラザー同盟>の指揮官とされている。異端の説の全てを集約した概論書を書いた。
トム・パーソンズ→ ウィンストンの同僚、スポーツ委員会をはじめとするいろいろな委員会の指導的職務をしている。
ミセス・パーソンズ→ トム・パーソンズの奥さん、子供達に非正統派かどうか監視されている
ティロットソン→ ウィンストンの同僚、記録局の職員
薄茶髪の娘→ 記録局の職員。夫を蒸発させられた。
アンプルフォース→ 記録局の職員。実務能力を欠く穏和な人物
ウィザーズ同志→ かつては党中枢の人物でFFCCに称揚されていた人物。その後FFCCの解体に伴い名誉を失った。
オーグルヴィ同志→ 英雄的状況で戦死したとされる実在しない人物
サイム→ 調査局で働くウィンストンの友人、歴史言語学者
ジョーンズ、エアロンソン→ ゴールドスタイン以外の反革命分子
ラザフォード→ ゴールドスタイン以外の反革命分子、諷刺漫画家
チャリントン→ プロールの居住区の古物店の店主
個人的に響いた表現
〈二分間憎悪〉の恐ろしいところは、それぞれが役を演じなければならないことではなく、皆と一体にならずにはいられないことだった。
引用元 ジョージ・オーウェル,高橋 和久. 一九八四年
きつい肉体労働、家庭と子どもの世話、隣人とのつまらぬいざこざ、映画、サッカー、ビール、そして何よりもギャンブル──それがかれらの心を占めるすべてである。かれらをコントロール下に置くことは難しくない。
引用元 ジョージ・オーウェル,高橋 和久. 一九八四年
過去が消され、その消去自体が忘れられ、嘘が真実となる。
引用元 ジョージ・オーウェル,高橋 和久. 一九八四年
危機的瞬間にあって人が闘うのは絶対に外部の敵ではない、常に自分の肉体と闘うことになるのだ。
引用元 ジョージ・オーウェル,高橋 和久. 一九八四年
印刷技術の発達によって世論の操作が容易になり、映画やラジオはそれをさらに推し進めた。
引用元 ジョージ・オーウェル,高橋 和久. 一九八四年
小説内の用語
オセアニア→ アメリカ大陸、イギリス、オーストラリアなどを含む国家
ユーラシア→ 旧ソ連、ヨーロッパなどを含む国家
イースタシア→日本、中国、東アジアを含む国家
ビッグ・ブラザー→ オセアニアの党の指導者、革命の指導者
テレスクリーン→ 鏡のような金属板でできていて、そこからあらゆるアナウンスが流れる。受信と発信を同時に行い、近くの音声と行動を捉える。
イグソック→ イギリス社会主義のニュースピーク
思考警察→ <思考犯罪=党に対する反逆的思考>を取り締まる組織。この組織に捕まっても逮捕の公表や裁判はなく、存在だけが消される。
ニュースピーク→ オセアニアの公用語、語彙量が年々減っている唯一の言語で思考範囲を狭めていっている。
真理省(ミニトゥルー)→ 報道、娯楽、教育及び芸術を担当する。ウィンストン・スミスの職場。不都合な新聞の記事などを改竄する。
平和省(ミニパックス)→ 戦争を管理
愛情省(ミニラブ)→ 法と秩序の維持
潤沢省(ミニプレンティ)→ 経済問題を担当
第一エアストリップ→ 以前はイングランドと呼ばれていた地域
二重思考→ <現実コントロール>のニュースピーク、記憶をすり替えて相反する思考を同時に持つこと
プロール→ 労働者階級、党によって資本家たちから解放された。党には劣った存在と見なされている。
二分間憎悪→ ゴールドスタインや反革命分子への憎悪プロパガンダ映像を見る時間
FFCC→ <浮動要塞>の水兵に慰問品を供給。のちに解体。解体前は党中枢のウィザーズ同志が称揚されていた。
アヒル話→ アヒルのようにガーガーわめくっていう意味。敵について使うと悪口になり、自分と意見を同じくするものに使うと賞賛になる言葉
栗の木カフェ→ 名誉を剥奪された党指導者たちが、粛清される前によく集まったカフェ。
表情犯罪→ 党の発表を疑うなどの表情をする犯罪
わからなかった言葉
管掌(かんしょう)→ 管理、取り扱う
モノローグ→ 独白
ネッカチーフ→ スカーフのようなもので大きさはそれより小さい
銃眼(じゅうがん)→ 銃で敵を狙うために防壁に開けられ穴
尋(ひろ)→ 深さの単位、6~5尺。
アンソロジー→ 作品集
衒学(げんがく)→ 学問、知識をひけらかすこと
手合い→ 連中、やつら
垂涎する(すいぜん)→ 涎が垂れるくらい欲しい
わらべ歌→ 子供達が歌う歌
男やもめ→ 寡夫